収録作品:初出誌・小説推理 | 1995年10月号~1996年6月号 |
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著者のつぶやき
岡嶋二人の呪縛は、しつこく僕の作品にまとわりついていました。なにせ『パワー・オフ』のような作品でさえ、ネット上では「トリックが弱く、ミステリーとしての基本ができていない。やっぱり井上夢人は岡嶋の劣化版だ」といった感想を書かれてしまうのです。一人で書き始めてからはミステリーなど1つも書いていないのに……。
だから、いっそのこと──そういう読者に向けて、彼らにとっては最悪な作品を書いてみようと考えました。
小説推理に9回にわたって連載した『メドゥサ、鏡をごらん』は、僕が〈噴飯もの〉と呼んでいる小説でした。これから本作を読んでいただく方のために、なにが噴飯ものなのか、ここでは詳述いたしません。その企みについては、読んで体験していただければ、と思います。
とにかく、岡嶋作品と比較しようと思っている読者にとっては、はらわたの煮えくりかえるものにしたかったのです。岡嶋を求めている人が井上夢人の作品など、二度と手に取るまいと思ってもらえるように、とまで考えました。壁本が書きたかったのです。ただし、読んでいる間はページを繰る手を止めないような工夫も各所にちりばめました。不思議な現象を追う恐怖感、アイデンティティの崩壊を描いてみたいと思いました。つまり、最高の壁本を目指しました。
講談社文庫版の解説を書いていただいた池波志乃さんが「ベスト1だと」評して下さったことは、ですからとても大きな励ましになりました。