初出誌・IN★POCKET | 2010年6月号~2011年12月号 |
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著者のつぶやき
ずいぶん前の話ですが、小説すばるで「あなたがリメイクっ!」というお題のエッセイを書くように言われたことがあります。リメイクしたい映画のことを書いてほしいと言われたのですけれど、出来上がっている映画をリメイクするなんて考えたこともありませんでした。それが傑作なら作り直す必要なんかないし、駄作ならハナから作り直そうなんて思わない。でも、音楽を映画にリメイクするとか、あるいは小説にリメイクするようなことは、けっこう妄想したりしていたのです。
で、このエッセイで、僕はビートルズの《ラバー・ソウル》を映画にしてみたいと書いたのでした。その考えを、僕はずっと引き摺っていました。なにより、この《ラバー・ソウル》というアルバムは、ビートルズの名品を並べた中でも非常に際立った特色をもったレコードだったからです。
映画ではなく小説に……という気持ちになったのは、僕にとっては必然でした。
ただ、これを小説化するには、途轍もなく大きな勇気が必要でした。「コアなビートルズ・フリークには、絶対に認めてもらえないだろうな」と、最初から思っていました。なぜなら、僕も結構なビートルズ・フリークだからです。
いざ書き始めると、この物語は奈落に落ちていくような気分を、絶えず僕に与え続けるのでした。書き始めたことを何度後悔したかわかりません。
そして、書き終えたとき、僕は知らず泣いていました。どうして涙が出ていたのでしょう。こんなことは初めてでした。